「貴方は貴方の思うままに生きてください。」
正直に言って面食らった。
いっそ突き放すかのような微笑をもってして、そう、言われた。そのくせそういった声は穏やかで、その差異にまず驚いたので、言葉の意味を咀嚼しようと思い至る前に、息をした。
蔵馬、と名前を呼ぶと、ふい、と彼は目をそらした。そうしてそこにある自分の映らない景色を慈しむかのように目を細めるのを鮮明に見た。
木の葉も燃える、かのような、煌々とした明るさ。光。それを見た瞬間に、先程の言葉がなんて甘美なものだったのだ、と思って、慄然とする。
思うままに生きてください。
許された。人間とはそういう生き物だったのだろうか。彼が似合わないほどの人間らしさを露呈させるとき、思い知るのは彼がどれほど自分を許容することに長けているかということ。
蔵馬はいつも、何も言わずして自分を許容する。安寧。幼馴染の彼女が、自分を受け入れる行為と酷く似ていた、が、彼のそれは恐ろしいと思ってしまうほどに静かだ。許されてしまった。そう思っている自分は果してそれを返せるのか、彼はそれを望んでいない。無償なのか、それを思案することは、少しだけ億劫でやめてしまった。
綺麗な人だ、と思った。それ以上に、潔い人だとも。彼を縛る幾つもの鎖が、彼に食い込む風には、とても見えない。無頓着な人。いくつもの諦めを諦めとしない人。どうして生きていられるのかと思った。
「じゃぁ、なァ、」
そう思って頬に触れた。そうして指にかかる髪の一本ですら、彼の妖気が通っていることを知っているから小気味がよい。愛おしいと感じ、だからと言ってその存在を、例えば、腕の中へと収める気にはさせない人。この、距離。それが自分を成立させている。それが彼を成立させている。どうして、生きていられるのかと、思った。
見据える目。季節の香りが鼻腔を満たす。じっと堪える。彼は、諦めている、固執している。何かを諦め、何かに固執し、何かに無頓着であるのは、誰だってそうなのに、自分だってそうであるはずなのに、それが際立つこの人は、何から見ても少し異端で浮いてしまっている。
「それでもお前が好きだと言ったら、それもありなわけ?」
この言葉を聞いた時の、その表情が好きだった。安心する。
少し驚いている風である。
この人にまともに感情が動いていること、自分もまた同様に。それがたまらなく安心するのだと知った。
蔵馬が、決して、予想外の言葉を言われて驚いているのではないことも承知である。それを知っていて敢えてそのままに言った。
「・・・うん、ずるい人だ、貴方は。」
 ゆるゆると心臓、に、似ているもの、核といったか、が、動いているのがよくわかる。脈を打つ。指先の熱。溶けて交わる錯覚。何がずるいものか、と言った。寧ろこれでようやくフェアになったのだ。





貴方を許そう、