いつもにこにことしているから、おおらかな人間なのだろうな、と思った。
本当に最初はそれだけで、いいな、と思った。優しい人なのだろうと。優しくって、好きだった。
迷惑掛けても、心配掛けても、ただ笑って、いいよ、って言う。彼と出会ったとき、その優しさが好きだった。
それから数年経って、私も少しだけ成長して、優しいということは、強いことなのだと知った。
その頃だって変わらずに、隣でにこにこと微笑むその人に、その強さに憧れた。
そして、今、きっとこの人はいつまでもずっと変わらずに微笑んでいるのだろうと、その事実がすこしだけ口惜しくなった。私は、気付いてしまった。
「私、勘右衛門の特別な人間になりたい。」
春になる。
まどろむ季節に、日差しが暖かく、空気がとろとろと流れていく。
勘右衛門は、私の言葉に、少しだけ驚いて、それでもやはり微笑んだ。あ、笑うんだ、と漠然と思ってそれを見た。
膝を抱えて息を吸うと、肺と心臓が近かった。春の温かさが血に溶ける。
「兵助は、もう十分特別だよ。大切。」
「……嘘、」
肯定も否定も返ってこなかった。
ずっと微笑んでいる人だった。なにがあってもずっと変わらない人だから、どんな外力もこの人には意味がないのだろうと知った。悲しくなって、愛おしかった。
沈黙した勘右衛門に、やはり知っていたのかと目を細める。
知っていた。勘右衛門も、自身のことを。それが、いくらか救いで、寂しいことだ。
風の音が耳を撫でる。咲くのはまだかと、花を待つ。そのまま、勘右衛門の言葉を待って、返す言葉は何の準備もできていない。それでもいいかと、思った。それでも、どうせ。
「ごめん。」
自然と口からついで出た。
情けない顔をしているのだろう。けれど、勘右衛門からしてみれば、それはあくまで外の現象でしかない。隠しきれないほどの感情、彼はどうして誰から貰うのか。分からない。分からないことを知っている。彼も。
強いことは素敵だと、疑いもなく信じた。
それも大方間違いではないけれど、それだけでないと私は知った。勘右衛門がそこまで気付いているのかはしらないけれど、いつかそれに気付いた時、開いた穴に気付いた時、それを埋めることのできる人間が、自分であればよかったのに。思うけれども、そうなれるだろうと確信はない。
細い細い望みを頼りに、なによりも強く愛おしい。あてもないのに、無性に願った。その、行く先を知らないけれど。
構うものかと意地を張るのではなく、構わないからと願う懇願。
僅かな違和感を感じないまま、ただ、穴があるのだろうなぁ、とそれだけ気付いて生きていくその人は、強かだけれども、私にとっては酷いこととしか言いようがなく、それでも彼はたとえようもないくらい優しいのだ。
「ごめん、ねえ、」
とろとろと耳に馴染む優しい声で謝られて、私は勘右衛門を見た。
やっぱり微笑んだままの勘右衛門に、私は上手に笑い返すことが出来ない。




いくら待てども