此方を見て、仙蔵が笑った。
笑ったというよりは、微笑んだと言うべきか。ふわり、といつも何かを企んだかのように笑うことばかりを得意としている癖に、今はその空気がまるでない。もともと整ったその顔を、正しく歪めて丁寧な微笑みという表情に変える。
女神のようだ、と思った。
思ってから、なんて恥ずかしいことを素面で思ったのだと驚いた。いっそ恍惚かと思うほどの穏やかな空気。
「文次郎、お前、いつか私を殺しに来るといいよ。」
狡猾な誘い。だけれど、それを仙蔵が言わねば、近い未来に自分が言っていただろうと思っていた。いつか、殺しに。もし自分が仙蔵を殺しに行ったところで、仙蔵は大人しくその命を差し出すとは到底思えない。自分が仙蔵の生死を握りはしないこと。それに安堵する。自分にとって仙蔵という存在を成立させる術を、知っている。
「仙、」
「無論、お前が来なければいつかきっと私が行くよ。」
私の言葉を、私が言わねばいつかお前が言っていたように。
気高くて、強い、鮮やかな人だと思っていた。姿を見た瞬間、本当に男かと疑うほどの女のように美しいその顔は、しかし、意志の籠った瞳と、強く引き結んだ唇が、見る者を決して侮らせなかった。四肢の細さから受けるか弱そうな印象すら、その表情の前には意味もなさない。強く鮮やかな人。事実、い組の中でも成績優秀と言われていた仙蔵は、誰かに頼ることなく生きていた。かといって、独立することもしなかった。周りに過剰な期待はしない、それでいて、自分だけで何かを抱え込むこともしない。人との距離の測り方を知っている仙蔵は、それだけで十分に強い人に見えた。そして、仙蔵のその性質を強さと認めるとき、自分も同種の強さを持っていると自負していた。
「まあ、そう言うとは思っていた。」
六年間、同室として過ごした。時を重ね、仙蔵の考えていることがなんとなく分かるようになる頃、自分が思っていた強さなど、あてにならないと知った。強さという概念そのものが、あまりにも曖昧であることに気がついた。気づきはしたが、自分が存外に、強くない生き物であることに対してのショックというものは、覚えている限り抱かなかった。記憶にないということは、もしも当時に多少のショックを受けていたとしても、まぁ、そういうことなのだろう。幸いにも、忍としていかに強く生きていくかを教えるこの学園は、同時に自分たち人という人種がどれほど強くないものであるかを教えてくれるところでもあった。
「お前は、それで満足できるのか?」
仙蔵の視線がこちらに向くその理由が、話し手を認識することではなく、今自分という存在がここにいることを確認するためであることを知っている。
問いかけたその言葉に、仙蔵は声もなくひとつ頷いた。きっと同じ問いかけをしたら自分だって否定することなど叶わなかっただろう。救われるのか。その言葉で、存在で。
少なくとも、自分たちは、今、こんなにも近くで、こんなにも生きている。
大樹の根、