目が合った。
そこからの一連の動作。顔が近付いていずれ唇が触れる。それは、あまりにも自然で流れるようで、そこに一瞬の躊躇いもなかったんだ。
そして触れた唇がまた離れていく。おれにとってなぜか分からないけれど一生のように長い一瞬がそこで終わりを告げる。これもまた、自然の動作で。
あれ?いや、でもおかしくないか?
心が、体が、いいようもない感覚でいっぱいになっていくようなきがして、顔が熱くなっていくような気がした。
これが、感情だというのならば、この感情は、まるで。
少し、どうしていまここにいるのかをふと考えた。
今日はいつもどおりに委員会があって、これもまたいつもどおりに七松先輩に振り回されながら裏々山までランニングして、学園に帰ってきた。で、そのあと、だ。みんなで解散して帰るときに、滝夜叉丸先輩は、一年生を送ってから行くって言ったから、それなら俺が、っていったら断られた。しかも、ぎゃくに七松先輩に送っていくって言われたから、平気だって言ったのに、迷子になるからって言われて(まさかこの年になって迷子なんてなるわけもないのに)、結局送ってもらうことになって、それで、あれ?そのあと、歩いてて、ふと、目が合って、あれ?
つい数秒前まで唇が触れていた相手はと言うと、俺もそうだけど、止めた歩みを再び進めることすらできずに、心なしか。
「先輩、顔赤くないですか?」
そうだ、赤くなった頬。年上だけれども、少しかわいいと思う。同時に、広がっていく感情。散雲。すーっと雲間から月が覗くように、クリアになっていく空気。なんとなく、自然だった一連の動作の不自然さがどれほどのものか理解が少しずつ追いついてきて、自分の中に感情が、乾いた紙に水を垂らしたみたいに、すーっと。広がっていく。同時に、受け入れている、自分。
「三之助もな。」
だが可愛いよ。そう言って赤い顔のまま微笑む七松先輩。あぁそうだ。この感情は人を恋う感情と全く同じじゃあないか。
思いがけない感情にただ驚いた。どうして。そういうことなんだろうか、そういうことで、間違いないんだろうか、俺は、七松先輩が・・・?
「三之助。私な、今気づいたんだが、」
「あの、俺、今気づいたんですけど、」
言葉が同時だったことに驚いて、一秒、沈黙。だけどそのあとに口を開いたのは俺じゃなくって七松先輩で。
「私は、多分、お前のことが好きだよ」
その言葉に嬉しいような泣きたいような感情。恋うってことがいきなり鮮明になった。
そうして俺はその言葉に精一杯頷いた。
俺も、です。と、返した言葉は自分でも情けないような大きさのものであったけれど、七松先輩にはしっかりと届いていたようだった。
無自覚