「僕はいつか三郎の重荷になってしまう」
「私はいつか雷蔵の重荷になってしまう」
二人して同じ顔を同じように情けなく歪めて、ぽつりと同時に呟いた。だめなんだ、このままではどうしても、よい方向に未来が進んでいかないことに気づいてしまったから。そういうものだと、思ってしまったら、もう駄目なんだと分かっているんだ。本当は気づかないふりをし続けたかった。本当ならば、これから一秒でも多く二人あり続けることを望んでいるんだ。だけど、欲するものと望むものがどうしても一致はしてくれない場合、どうしてどちらかを選ばなくては前に進むことはできないのだろう。決断を怠った場合における可能性は、いつだって哀しい。
このままではきっと私は雷蔵の重荷になってしまう。雷蔵は私の重荷になってしまう。二人でいることが生き急ぐことになってしまう。できれば、これからの君の一生に幸おおからんことを。だけど、それでも、さて、どうすればいいのだろう。何を間違えたわけではない。何も間違えなんてなかった。だからどうかこの先、私たちが見ている通りの展開になってしまうのならば、それは、私たちが思い描いている通りの展開ではないけれど、全部受け入れる覚悟をしようじゃないか。たとえそれが2人にとって喜ばしくない未来だったとしても、鉢屋三郎と不破雷蔵にとってはきっといい展開だと言えると思う。そうして生きていけるのならば、止められないものをそう惜しむこともないだろうと、自分に言い聞かせてはみても、結局は虚しいばかりで心に大きな穴が開いたみたいで、それが涙も出はしない理由だったんだろう。
前に進む覚悟をしよう。
そうしていけばいつか今は憂えるばかりだった未来がやってくるんだろう。それでも大丈夫だと、その時には笑えるように。杞国の空は落ちやしない。
「ずっと一緒にいることが叶わないと、今更思い知ることもなかったのに」
雷蔵がそう言った。下唇を噛んで、耐えきれない涙が瞳から溢れて。悲しむことはないんだと、そう言ってあげたかったのに、どうも喉から出る息は声帯を震わせることはなく空気を濁した。
思い知る羽目になると、本当は気づかないふりをしていた。
感情が大きすぎてしまうんだ。愛しいけれども、この先も守り続けてあげることはできない。私は、諸刃の剣しか振るえない。
全てが仮面をかぶっていただなんて言わない。けれど、私がそうであったように仮面をつけて誤魔化して生きていく人だって少なくはないんだ。その事実を認識することにそれほど躊躇は必要ない。だけど、君だけは本当だったと思うんだ。私にとっては。だから、たった一つ、確実な真実だけはどうしても失い難いものだった。
ぽろぽろと零れる雷蔵の涙が畳に沁みていく。そう簡単にはなるものか。それを覚悟することがどれほど恐ろしいものか。本当は知っていて欲しかったのかもしれない。必要に迫られたらいつだって、縁など切り離していかなくてはならないのが忍だというのなら、その事実が少し悔しい。
本当は、ずっと前から悟っていたのだ。お互いが生き残っていくために、いつか一人にならなくちゃいけなくなる時がある。二人、と、鉢屋三郎と不破雷蔵、は全く別の観点だから。その二つを天秤にかけた時に、今選ばなくてはいけないのはどちらなのか、私たちの結論は決して違えない。お互いがお互いのことなんて分かりきってしまっているから、こういうときに、本当に選びたいものよりも、選ばなくてはならないものを優先してしまう、弱さも。そうして二人、で、今まで生きてきたのだから。その先にあるものを想像してみよう?未来なんていくらでも変えようはあるけれど、可能性は見えてくる。そうするために選ぶべき選択肢を選ぶことは、決して間違ったことじゃあ、ない。そうだろう?
「私は、もっと強くなりたかった。」
弱いことは悪いことではないけれど、悪いことは弱いことなんだ。決まりきった答えをわざわざ確認することにどれほどの意味があるのだろうかだなんて、愚問だろう。結末は変わらない。良い方向に結末を導くのならば、なにが良い結末で何が避けなければならない結末なのかを、見据えていかなくてはいけない。そうでなくては、何も残らないままに結末が来てしまうから。
「僕は、もっと強く在りたかった。」
責任はない。非難の声もない。間違ってはいないのだから。だけれども、正答だと言い切れる根拠もない。それでも仕方のないこと、なのだろう。そうならば、どうすることもできない。どうしようもない。それは、悪いことではない。言い聞かせる声が、心の中だけだなんて、なんて狡いことなんだろう。信じてあげられない。何を、信じて、何を疑えばよかったのか。君を慈しむ想いが未来を傷つけてしまっている事実を、受け入れるならば、未来の方向性も定まるんじゃないだろうか。そう、思ったから。
「どちらかばかりが傷つくのは不公平だろう?」
「だから、僕と君が、それぞれ傷ついて、癒して、そうして、」
その先が仮になかったとしてもだ。
例え話をしよう。仮定の話だ。
このまま一度別れた私たちの未来が、この命尽きるまでに一度として交わらなかったとする。道は、決して交わることはなかったと。その時、私は泣くだろうか。君は泣くだろうか。悲しむだろうか。いつ交わるかも分からない未来をいまだ夢見てそうして死んでいくのならば、そこに憂える必要はないはずだろう?まだ、未来があると期待することができるのだから、命が尽きるその瞬間までは。その、一瞬、ほんの一瞬だけ哀しいかも知れない。もしかしたら、その一瞬には悲しむほどの余裕なんてないかも知れない。でも、それでも、その間に、いくつもの幸せを見つけることはできるだろう?これから違えた未来、私たちは、私は、君は、二人で世界のすべてじゃあない。きっといくらでも幸せを見つけていくことができるから。きっとこの広い世界はそんなに酷いところじゃない。私が君に出会えた世界だ。たくさんの優しいものがあふれている世界だと、私はこの世界に生まれたことを誇りに思って生きていけるよ。それは、私だけじゃないだろう?だったら、決して悪い未来じゃない。
「だから、憂える必要はないよ、雷蔵。泣かないでいいよ」
いつまで続くか分からない未来だ。どんな素敵があるか分からない未来だ。ここで、一度だけ、お別れしよう。別に唐突なことじゃないんだから。私だって、雷蔵だって、本当はずっと前から分かっていたことだろう?
だから、お互いのために。お互いが大切にするお互いのために。ここで一度お別れしよう?
(あぁ、本当はその決断が嫌で嫌で仕方がないといったなら、君はどんな反応をするのだろうか。)
君が大切なのです、