綾仙



梔子の花。御身の想いの行方を辿る指先は、水中を滑る白魚のようでありました。風の音に天気を読んで、波の音に昔を歌い、月に祈りを捧げて、貴方の行動は一貫して、私の想いを汲み取ることをやめました。私は、口惜しいとそれだけを徐に口ずさみ、目を瞠ることをやめました。そして、せめて貴方に反するかのように、星に願いを託しました。
持て余した寒さは身に沁みましたが、それは決して季節のせいではありませんでした。私は、どうせ大切なことを口にはしてくれない貴方の想いを汲み取ろうと、夢中になって、貴方の瞳ばかりを見ていました。そのとき、確かに目が合っていたということは、貴方も私の瞳を見ていたということですが、それでも貴方は私の想いを汲み取ることはしませんでした。汲み取ることを、しなかったのか、できなかったのか。その差異と、生じる私自身の想いの変化を私が説明できない限りにおいては、言及することをやめましょう。
水を泳ぐ、魚。泳ぐ水の冷たさ。その切実さほどに、私は苦い果実を頬張り呑み込み、貴方に手を差し出しました。貴方の瞳ばかりを見ている私は、その手が果汁で汚れていることには気付きません。貴方がその手をとったのかどうか、私は終に指先に僅か向けられていた意識を放棄しました。白魚は、水を泳ぎます。勿論私は、その指先を見てはいませんでした。
未来行路を孕まない、夢の様でもありました。現実でありながら、示唆するものは何一つありません。全てが常世のようだったのか、私が浮世のようだったのか。貴方の瞳ばかりを見ている私は、その見えない指先を白魚と呼ぶ。盲目なほどに貴方を愛して、月が沈んで、日が昇って、地平線が真直ぐでない事実も忘れ果てて。
さあ。
さあさと息をのむ音が聞こえて、貴方が遠く遠くへ離れていく錯覚に全身を包まれて、思わず視線を逸らしてしまいました。そのとき初めて、貴方の手を、見ました。貴方の指先は決して白魚ではなく、傷だらけで、自分のと他人のとの血で塗れていました。その手をひらひらと、貴方は私に向かって振るのでありました。それはまるで、一つの意志そのもののようでした。一生を食べることに費やす赤い魚のように、たった一つの理由を持ってひらひらと振られるその金魚の掌を、私は、身体を折って咽び泣いて、見ていることしかできませんでした。
そして、せめて貴方に反するように、星に願いを託しました。