「左門、何書いてるの?」
「書き初め!」
ほう、と興味深そうに作兵衛と三之助が覗く。どうやら会計委員の宿題らしい。
紙から幾分かはみ出て畳を黒くした墨を見て、作兵衛が露骨にいやな顔をした。
迷うな。
半紙にこう書いてあった。左門が持っている筆であらわせる最大限の太さだと思う。意志の強さの窺える字は、恐らく一画とて迷わずに書かれた。そう、それがたとえ畳みの上へと飛び出そうとだ。
「今年の抱負!迷ったら負けだと思う!」
「去年もそれじゃなかったか?」
「忘れた。」
「そっか。じゃあ仕方ないな。」
三之助の言葉にきっぱりと、迷うことなく告げた左門に三之助が笑う。なんでそれでよしにするんだよ、と作兵衛が言った。視線の先にはまだ黒くなった畳がある。
「迷ったら負けって・・・・お前それ十分負けてるだろう、」
そういえばさっき数馬に、作ちゃん今年も迷子のお世話頑張ってね、なんて言われた、と思いながら言ったのだが、どうしてだか残り二名にその言葉が届かない。
「左門、それどっかよけて乾かしとけ。三之助は・・・やっぱいい。俺が雑巾とってくる。」
そういう時に、わざわざ言いなおしたところで決して伝わりはしないことを経験上分かっているので、作兵衛の適切な指示が下された。