「滝先輩、さ、あんたの恋って無謀だと思うんだよね。」

あぁ滝先輩と呼ぶのはやめろともう何度言ったと思っているんだ。滝夜叉丸先輩と呼べと言ったのに。お前がそんな風に私を呼ぶから四郎兵衛が真似するだろう。だが四郎兵衛は一回言えばすぐに分かってくれたというのに、三之助、お前は何度言っても分かりやしない。しかも、だ。私の部屋で。お前より一つ年上の先輩の部屋で、なぜさも自分の部屋かのように寛いでいるんだ。うつぶせに寝ころび、肘を支えにほんの少しだけ上体をおこして。
しかも、お前の話題の選択は最悪だ。無謀だなんて、知っている。あの人は後ろを振り返らないよ。自分の前にあるものだけを見てずっと走って行ってしまうよ。分かっている。分かっているけれど、それでも私はあの人がすきなんだ。
こういうのもなんだけど。三之助は、続ける。どう足掻いたってどれほど恋うたってあの人には届きもしないよ。高望なんて、馬鹿馬鹿しいのに。なのに、どうしたって淡い期待を捨てられずにいるんだろう、滝先輩は。
「なにを馬鹿なことを、」
「馬鹿って、ひど。」
「何もそれを私にわざわざ言わなくても、」
鏡に向かって言えばいい。最後の言葉は呑み込んだ。そんなことは、それこそ、鏡にでも向かって言えばいい。
こういうのはなんだが。私は、言うだけ言ってみる。私は百も承知だよ。お前だって分かっているだろうに。三之助、私はお前ではないよ、私たちは少しだけ似ているだけだ。
そう言うと、三之助はくすりと笑った。くすぐったいとでも言うように。そのくせして今にも泣きそうな酷い顔で。
今まで散々くつろいでいた三之助が立ち上がり、私の部屋を後にしようと歩く。そして襖に手をかけて、私を振り返って言うんだ。
「滝先輩。俺、滝先輩のことすごく好きです。」
「馬鹿。だが、私も意外なことにお前は好きだよ。」
「「七松先輩の次に、」」
声を合せてお互いに笑って見る。三之助は、さっきと同じような酷い顔で、私も、きっと同じような表情をしているんだろう。