「それは、うん、どう考えても、」
「文次郎が悪い。」
ここまでのいきさつを聞いた留三郎と小平太の結論だ。
後ろで伊作は笑い、花嫁が可哀想、と言って、袋の中から苺大福をひとつ取り出し、お食べ、と仙蔵に差し出した。差し出されたので咄嗟に仙蔵は受け取って、どうしたものかと手の中の苺大福を見た。なんか食べておいた方がいいよ、と伊作が重ねて言うので、そのまま簡易な包装を解いて一口食べた。甘い。
「あのね、文次郎。本当にそう思ってる奴は十六年も誰ひとりにも靡かず花嫁待ってたりしないの!不器用め。」
「いさっくんせんせーの説教通りだぞ、文次郎。」
いさっくんせんせー、を強調して小平太が笑った。
あれよあれよという間に、ポリ袋の中身は広げられ、小平太や伊作がそのうちの菓子類の袋を開封している。
「同い年だろうが!」
「先生と生徒じゃん。」
留三郎がパンの包みを開ける。菓子もパンも文次郎へ差し出されることはなかった。
「・・・同い年で生徒と先生?」
仙蔵が今日一日で分かったことは、彼らの会話で疑問に思うことは全て聞いておいた方がよいということだ。彼らにはそもそも常識が通じない。彼らも種族の違いを認識しているためか、訊けばその都度反応して答えてくれるらしい。今も、仙蔵の呟きに対して文次郎が素早く反応して口を開いた。
「ああ、鬼は、寿命が違うから、生涯のうち何回か迎える花嫁の在学期間に合わせて、何回か高校在学するんだよ。」
「因みに、ここにいる五人は二百を超えている。」
今は仙蔵に合わせて、鬼頭と三翼は高校一年に属しているが、伊作は保健医として鬼ヶ里高校に勤めている、ということだった。ふうん、と仙蔵が説明を呑みこむと、だから何か困ったことがあれば保健室においでね、と伊作が緩く、若干に頼りない表情で笑った。
「まぁ、君と同じクラスには文次郎がいるし、隣の組には小平太と長次、その隣には留がいるけどね。」
「文次郎が頼りないかもしれないし。」
伊作が留三郎に目配せすると、何かを察したのか留三郎が続けてそう言った。二人が少しだけ口を笑いの形に歪めたのを見て、文次郎が徐に溜息を吐いた。
「仙蔵。」
それから、真直ぐに仙蔵を見た。
「、何だ。」
鬼頭と呼ばれる由縁の説明は、行きの車の中で受けた。初めて見たときは確かに気圧された。けれども、気付けば出会ってまだ幾許も経たぬうちに仙蔵は文次郎をまた真直ぐに見返せるようになっていた。それに驚くよりも面白いと自分で感じる感情が先立つ。
「お前をここへ呼んだのは、俺だ。不服も不満も全て受け止める。だから・・・あの二人にせっつかれたのは不本意だが、全てを賭けて、貴女を護る。」
そう言った文次郎の指先が、頭を掻いているのを見て、文次郎をせっついた張本人たちは顔を見合わせて声を堪えて笑った。
失言を撤回する言葉にはなっていないが、それが彼なりの本心だったということだろう。
護る、と、そう言われて、仙蔵はなんだか謎が一つ解けたかのような気分だった。この男に護られるということを、自分がこの男の花嫁として生まれる前から遺伝子をいじられた存在ならば、自分は遺伝子で知っている、と気付いた。ならば、当初から感じていた安堵も分かる。
仙蔵は、テーブルの上、自分の近くにあったカレーパンの袋を一つ掴むと、それを文次郎に投げつけた。
「どうせ、家にはもう、戻れんさ。お前も、何か食べればいいだろう?」
「お前・・・・・、存外に性格悪いな。」
「・・・どういう意味だ。」
「褒めている。」
出会って半日だ。確かに、そうとは思えないほど仙蔵は自分自身が文次郎に対して、それからここにいる人間(正確には鬼であるが)に対して心を開いているのを感じている。だからと言って、出会ったばかりの人物に性格が悪いなどと言われる覚えは無い。そう思った時、低く優しげな声が聞こえた。
「無理を、していたのだろう。それを心配しているだけだ。」
長次のものだった。仙蔵が今まで、それも今日に限ったことではなく、ずっと、という意味で、無理をしていたことを、言い当てられて仙蔵ははっとした。この空間で出していたものは、雰囲気も口調もまるで違うことを、意識していなかったのだ。ついにはおかしくて仙蔵は笑った。








     *


かくして、鬼頭の花嫁が鬼ヶ里の地に迎えられた。
ここより書き手は、それから二年先の出来ごとたちを綴る。