仙蔵を迎えに来たという二人は、見慣れぬ制服を着ていた。
相手はどんな人物なのかを聞くと、小平太は実際会った方が早いと笑い、留三郎は俺に効かない方がいいと苦い顔をした。
家の前には、高級な外国車がとまっており、その運転席に留三郎が座った。
「え」
「なんだ、別に、免許なら持ってるぞ。」
後部席のドアを小平太が開け、さあどうぞ、と笑った。
「仙ちゃんは後ろ。ねぇ、留三郎、私は?」
「好きにすりゃいんじゃねえの?」
「じゃあ後ろ行こー。」
やたら能天気な様子で小平太が仙蔵に続いて後部席に乗り込む。
しかし、言われたままに車に乗った仙蔵の表情が硬いことに気付くと、顔にのせていた笑みを消す。
「嫌いだな、私は」
小平太の言葉に、シートベルトにかけられた留三郎の手が一瞬止まる。
「かたく拒否する親の所から花嫁連れてくるより、納得していない花嫁を快く送り出す親を見る方が、私は嫌だ。」
「そりゃお前、」
留三郎が薄く笑う。
「お前が、悪役気質なんだろう?」
「あー、うん、そっか。」
仙蔵は二人の会話を何となく程度に耳に留めながら、車窓越しに自分の家を見た。
やがてエンジンがかかり、発車する。
奥歯は、噛みしめていた。
視界から流れていく家に、小気味がよいと思っていた。けれどその実口惜しかった。
うまくやってのけるつもりでいた。うまくやっていけているつもりでいた。事実、両親から望まれる子であろうとした努力はきちんと結果に結びついていたし、両親もそれを喜んでくれていた。
「辛い?」
その声に、仙蔵は素直にうなずくことが出来なかった。声をかけた張本人は、隣から仙蔵を覗きこんでいる。黒かったはずの瞳は、恐ろしく美しい黄金色をしていた。
「口惜しい」
その代わりに、間髪いれずに仙蔵が低く言い放つと、小平太は目を見開いた。ぱちぱちと、二度瞬きをする。二度目の瞬きによって閉じられた瞼が再び上がるときには、瞳は元の黒色に戻っていた。
思わず、仙蔵はその瞳を凝視してしまう。仙蔵の視線に気付いた小平太が、短く息を吐いて、思案を巡らすように視線をぐるりと泳がせた。
「鬼がいてね。」
そして名案とばかりに一本立てられた人差し指とともに仙蔵をみたのだ。
「や、小平太、それはない。さすがにそれはない。もっと分かりやすく説明しろ。」
「苦手なのに。」
「知ってる。だからお前と来るのは心配だったんだ。」
留三郎が溜息をつく。
「俺らはな、人間じゃないんだ。」
そしてぶっきらぼうにそう言い放った。
「鬼?」
「そう、鬼っていう、種族なんだ、人間じゃない。」
先程小平太が使った言葉を用いて仙蔵が訊くと、どうやらそれで正解らしい。
「私も、留三郎も、それから今から仙ちゃんが会いに行く相手も。」
「本当だ。信じられないかもしれないが、鬼というのは実在だ。もっとも、昔話に登場するようなものとは違うんだが。」
こほん、と留三郎がわざとらしく一つ咳をした。
「鬼の一族には、女が産まれないんだ。これは、子孫を残す上で、決定的な欠点でな。だから、鬼の子供を産める存在が必要なんだよ。そこで、人間の胎児をな、その、鬼の子を産める存在にするんだ。」
「そう、女児を身籠っている母親脅してね。命助けてあげるから、お腹の子が十六になったら、私にちょーだいって言ってね。鬼の血を混ぜて遺伝子狂わせるの。」
「・・・そんな、卑劣な。」
そんな横暴な話が世間に転がっているなど、聞いたためしがない。
鬼、などそんな昔話でしか聞かないような存在を、はいそうですかと受け入れられるような人間では、仙蔵はなかった。なかったのだが、何故だか疑うこともなく話を聞いてしまった。
そもそも、自分がどうやらその二人が話す内容と同様に十六の誕生日にどこかへの縁談のために迎えが来たのは確かである。それに、そうだ、この二人を初めてみたときの、あの、何といい表わせばよいのか分からない、圧倒的な存在感。あの、見るだけで気圧される、その生き物を、鬼、というのならば、なんてしっくりくるのだろうか、と、そう思った。
「って言っても、昔は孕んだ女を子供ごと連れ去ったって話さ。かわいいもんになっただろう?・・・・でだ、今からお前が嫁ぎに行くのが、その鬼の頂点、鬼頭だ。鬼の中で一番力のある男だよ。力と言っても、生まれの権力や、武力どうこうじゃないんだが。・・・・そうだな、存在感、とでも言おうか。それがな、一番、なんだよ。先祖返りって言うんだ。」
「・・・・存在感、」
「多分、会えば分かるよ。」
この男たちに感じた威圧感が、その力なのだろうか、と仙蔵は小さく身震いをする。
「さて、そしてここが鬼の集まる里、鬼ヶ里だ。」
車は山道の途中に止められた。
鬼ヶ里高校、石柱にはそう彫られている。