※死ネタです。六年が伊作以外すでに亡くなっている設定。



四季ってどこにでもあるものですか?
僕は何度も新しい季節が来るたびに、この季節に出会うのは最後かもしれないと覚悟を密かに決めているのだけれど、それっていうのは、職業柄やっぱり仕方のないことだよね。
四季ってどこにでもあるものですか?
それともこの日の本に生きている間にしか出会えないものなのですか。だとしたら、いまだ戦の絶えない乱世だけれど、この国に生まれてよかったと、本気で思うかな。そして、この国に生まれたからこそ、君たちのような大切な人たちと出会えたのならば、それこそ、強く思うよ。そこに悔やまれることなんてない、って。
春が好きだ。噎せ返るほどの花の香り。全ての風に色がつく季節。
夏が好きだ。高い空、どこからか聞こえてくる潮騒。それが胸を落ち着かせる。
秋が好きだ。彼岸の花、紅葉。全てが紅く染まる世界はとても、美しい。
冬が好きだ。あらゆる生き物が息をひそめる静寂。肌を撫でる冷気が存外に心地よい。
そしてときとともに流れる季節の中で生まれ出づる全ての命が愛おしい。そしてもうすでに過ぎてしまった、二度と戻らない季節の中で失われてしまった命が、今も、まだ、好きで好きで好きで好きで、大好きで。まだ、たまに、泣いてしまいたくなるほど、大好きで。
みんなが同様に感じていた痛みを、きっと僕も感じている。新しい季節の訪れとともに決める覚悟も、今のところ全て無駄になってくれているけれど、最期の季節、きみは、きみたちは、一体何を見ていたの?そのとき、鮮やかな季節の色を背景に、一番暖かい記憶が迎えに来てくれた?
卒業したら、もう、次には、いつ会えるかだなんて分からないと、泣いて笑ったあの日。もう二度と会えないことばかりを精一杯考えていたよ。本当に泣きたくなるのは、また出会ってしまった時の方だと、六人揃って容易に想像つくのに考えないふりをして。
結局のところ、あれから会っていない人はいなくて、それは、敵だったり味方だったり、したわけで。敵軍であっても、ひとつの戦が終わるときに、無事に帰っていくその背を黙って見ていたこともあれば、味方で、味方であっても、ううん、それは、敵味方関係なく平等に襲ってくる安寧。それに包まれるときに感じるものは、恍惚なの?
命の重さというものを、僕たちはいつも身に感じていたじゃないか。それは、ときに痛いほどに。あまりにも重いものだから、きっと、重力に従って無情にも落としてしまうのかな。でもね、でも、僕は見つけたよ。知っているよ、その、命よりも重いもの。きみたちはそれを知っていたの?知っていてそれを僕に渡していったの?
記憶。言葉。その愛おしそうに呟かれた名前が、響くべき人の耳に響いたあの安堵に、今でも泣きそうになってしまう。そして希望の瞳を落としてしまったのだろうか、それとも新たな希望を見つけていったのだろうか、戦場を駆けるその背。幸せの形なんて人それぞれだとは誰もが言うけれど、それでも、幸せと言うにはあまりに哀しい。だけれど、うん、きみたちは、悲劇と言うにはあまりに幸せだね。なんていうのは、ごめん、やっぱり僕の測り知れる範囲じゃないかな。
前述した、命よりも重いもの、僕には、その人の抱いていた想いというものが、なによりも重いと思っているよ。どうして僕に託したんだろう、なんて、訊くまでもないかな。何となくね、分かってるよ。今生きている全人類の中で、僕が一番きみたちのことを理解してあげられている自信はあるもの。
みんな揃って、同じ想いを僕に託したんでしょ?
生きて。
そんな単純な願いを。そんな難しい願いを。色のついたもので濡れた手が、そして僕に触れたんでしょう?
何一つだって取りこぼしたくなかった。自分に大層な力なんてないことは知っているけれど、それでも、せめて目の前の人間くらいは救える力が、あればよかった。なんて、言ったら、君たちには失礼になってしまうのかな。

ただ一つ言えることとして、僕には、過ぎ去る季節の中で、もう会うことのできなくなってしまった君たちの命が愛おしくて愛おしくて。その、命の色が途絶えてしまう瞬間を、僕は五つも見てしまったのだけれど、色が途絶える、けれどもそれでいて何よりも鮮やかな瞬間を、僕はきっと一生忘れることなんて叶わないだろうね。



やがてすぎゆくすべてのきせつ
新しい季節の訪れに、最後の季節を見出しながら、これを記す。