※死ネタですすみません!!







桜 桜 生きるのならばそれは、素敵な思い出を私の上に春の光とともに、










青い青い空はいつの間にこんなにも高くなったというのだろう。駆け抜けた先には春の景色。空、若葉色の地面に散る桜。吸い込まれそうな景色だった。その中に見知った萌黄色を見つけた。あまりにもその色が景色の中に馴染んでいたものだから、声をかけようとしたのに思わず息をのんでしまった。萌黄色の忍装束は学年みんなが同じ色だから、なにもこいつがここにいたから、なんて理由にはならないんだろう。だけど、そんなもんだろうか。誰でもいいわけではないだろう。ちぐはぐなのは、姿、もっと、こう、何ていえばいいんだろうか、こいつはこんなんだったか?
「三之助、」
声を発する、その声があいつの耳に届いてあいつの神経を通して脳が察知してあいつが振り返る。その時間が酷く長く感じて、どうしようもなくもどかしかった。振り返った、三之助が泣いているのを見て、あぁ、あのちぐはぐな印象はこのせいだったのかと驚くこともなく納得する。温かい日の光に照らされて涙がひかる。きらり。白く。知ってる。三之助や左門はよく迷子になるけど、その時にこういう景色のよい場所を見つけることが多くある。俺たちが2人を探すと、見つけた時に、そういうところによくいることがある。だから、今もそうなんだろうかと、思ったんだけど、それじゃあこの涙の説明がつかない気がして、でも、何ていえば分からなくって、再度名前を呼んだ。三之助は、微笑んでから、藤内、とおれの名前を呼ぶ。あ、なんだろう、この切ない感じ。
「ここでさ、待ってたんだ、俺。」
「・・・・・さんのすけ、」
「うん。」
誰を、とは言わなかったけれど、知っている。三之助はずっと待ってるんだ。あんなに方向音痴の三之助が、ここまで迷うことなくきて、桜の下で、果たされない約束を待っている。三之助が、あの先輩の名前に唇を動かした横顔を見て、俺まで泣きたくなった。
七松先輩が、任務に出て、未だ帰ってこないことは、学園の誰もが知っている話ではあった。ここからは、俺が委員会のときに立花先輩に聞いた話、正直、あの人が悲しいって感情をあそこまで露わにたのは初めて見たから、六年間学んできた友との絆がいかに強いかを思い知って、俺も、七松先輩のことは悲しいと思っていたんだけど、一層そこまでかかわりの強くなかったあの先輩を哀しく想った。少し、話が脱線したかな。そう、それで、立花先輩が言うには、危険な任務だと、最初から七松先輩も他の六年生も分かっていたらしい。しかも、七松先輩がその任務にでかけた後に、他の城までもがその戦に加わると情報が入って、さらに危険な状態になったって。これは流石に危険すぎると、先生たちが急いで救出に向かったらしい。そういえば、やけに学園に先生が少なかった日が、あった。結局、七松先輩は、見つからなかった、とのことだった。三之助は、未だ帰らぬ七松先輩を待っている。
「分かってるよ、藤内、だけどさ、」
俺は、うん、一言頷いただけだった。三之助が七松先輩を好いているのは、痛いほど知っている。好きって言う感情の前じゃ、理解が追い付いていたって、どうしようもないものがあるんだろう。感情ばかりは、どうしようも。それを、俺は痛いほど知っているんじゃないか。だって、俺は、三之助が好きなのだから。この想い、そう。こんなどうしようもないものを、三之助が抱えているのなら、どうにかしろなんて、俺に言えるはずもない。
待ってろって、言っていたから。三之助はそう言った。七松先輩も、三之助をいとしく想っていたことは、知っている。三之助は、だからこそ、ここに来るんだろう。春の日。そこに残っているのは、あの人の温もりじゃあなくって、ただの陽光の温度だと、分かっているのだから、なおどうしようもない。もどかしい。
どうして桜は散ってしまうのだろう。こんなにも綺麗な日、景色、こんなに愛しい世界の中で、散っていく桜。その木の下にいる三之助と、近づけずにいる俺。泣きたくて仕方なかった。だけど涙が零れ落ちずにいたのは、咲いては散るその桜があまりにも綺麗だったからだ。無常は無情だと、誰が言ったのだろう。散りゆく桜はこんなにも、世界を鮮やかに、されど優しい色に変えているというのに。
風、ひゅう、というよりは、ふわり。風に飛ばされた桜の花びらがどこまで行ってしまうのか、目を閉じて数秒想った。分かるはずもないのに。そうだな、綺麗な湖の水面に落ちてくれたらいい。もっと穏やかな水で生きてくれたらいい。春の日差しを受けて、波が白く光る、そんな。
「三之助、帰ろう。」
目を開いて、そう言った。そうしたら、三之助が、たどたどしく微笑むものだから、ああ、もう、胸が痛くて仕方がなかった。そうして背を向けて、俺は歩き始めた。後ろ、三之助がついてきてるかは、確認していない。振り返ることができるはずもなかった。このとき、振り返ってなんと言ってあげることができたのなら、よかったのだろうか。
多分、俺は泣いていて、三之助も泣いていて、どうすることもできない感情を、互いに言い合うこともなく抱え込んでいて、全部桜の花だけが知っていた。全部桜の花が見ていて、そうして、その花は散ってしまう。
どんなはなもいずれは咲いて、愛でられて、そうしていつかは散ってしまうと知っていたけど、果たして桜ほどに儚く切なく映る花が他にあっただろうか。
涙が止まらないのは、めちゃくちゃだったけど優しかったと聞いていた先輩が、もう帰ってくることはないだろうと、その事実を悲しんでいるんだと言い聞かせた。本当に、どこか綺麗な湖の水面に放ってしまいたかったのはきっと涙でこの感情で、散ってほしくない桜、その行方を想った時に、いつまでこのどうにもならない感情を抱えてもがいていかなくちゃならないのかと思ったら、そう思った自分がどうしようもなく矮小なものに見えてしまって、その事実にまた泣きたくなった。

「藤内、」

刹那、後ろから声がした。三之助だ。もしかしたら三之助はまださっきの桜の木の下にいて、俺はひとりで歩いているのかも知れないと思っていたから、少なからず驚いた。立ち止まる。振り返れない。
「藤内、大丈夫だよ。」
風、が、俺の横を通り抜ける。視界の端から、萌黄色。三之助が俺を追い抜いて走って行った。大丈夫、なんて、なんで、お前が言うんだよ。三之助は大丈夫じゃないし、俺だって大丈夫じゃないし、心配しなくても大丈夫なことは、桜は散っても来年同じ季節にはまた咲くってことだけで、他に大丈夫なものなんて。
ないと分かっているのは、俺だけじゃないくせに。

「お前、馬鹿!そっちじゃないっ!」

とりあえず、道なき道を進もうとし始めた三之助を追いかけた。
多分学園につく頃には夕飯の時間になっているんだろう。部屋に戻ると多分数馬が待っていてくれて、俺の顔見て、にっこりと笑って、行こうか、なんて言ってくれるんだ。だけど今日は、数馬には悪いけど断ってしまおう。そして部屋から桜が散るのをずっと見ていよう。大切な桜が、大切な何かがそっと消えてしまうのを。

俺の頬を伝う涙が春の光を反射した。きらり。








桜 桜 散りゆくのならばそれは、どうか暖かな想いとともに、








ひさかたの、