「先輩、それじゃあ、奇数です。」

言いにくそうに、三之助が私に向ってぼそっと言った。
ひーふーみーと指さしながら数えてみれば、確かに五つ。奇数だ。
長次が貰ったと言ってカステラをくれたから、長次が図書室に行ったとほぼ入れ替わりに部屋にきた三之助と食べよう、という話になった。珍しいものは長次がよくくれる。長次がよくひとから貰うのはうらやましいとは思うけれど、こうして私にも分けてくれるので、別段気にすることでもない。
食堂まで包丁を借りに行くのは面倒なので、食べ物を切るのには行儀が悪いと文次郎にこの前言われたけれど、まぁいいかとついさっきまで手入れをしていた忍具の小刀で端から切り分けていったのだけれど。
「あれ?このくらいの厚さできれば、六つになると思ったんだが。」
「だって、三つ目と四つ目が他より厚くないですか?」
「本当だ」
言いつつも、切ってしまったものは仕方がないので一番端のものを口にいれる。と、三之助もそれに倣って反対側の端の一切れを食べ始めた。
甘いくておいしいカステラの味が口の中に広がる。

午前は曇っていたのだが、今ではすっかり晴れて、多少の湿度とともに温かい光がすーっとこの部屋にも注がれるクリアな感覚。
「あ、じゃあ一切れは半分こにすればいいか。」
そう提案してそのまま真ん中の一切れに手をのばして半分にすると手で千切ったために微妙に歪で綺麗に半分にならなかった。どっちがどっちかはあとで決めればいいと思ったから、とりあえずその歪な欠片を元の場所に戻すとそのかけらを見て三之助がくすりと笑った。おかしくて笑ったというよりは、なんだかすごく優しい感じで笑ったものだから、あ、その表情すごく可愛い、って思って、そのまま口にしたら今度はちょっとおかしいらしくって笑われた。
「最初に真中から切ればよかったですね」
三之助がまだ少し笑いながら言う。
「そうだったかもな。三之助はそういうところきっちりするのか?」
「いえ、別に。ただ作がすごいきっちりするんで。」
「ふーん。私もな、長次はすごく気にするんだ。」
「「だからいつも自分では切らない。」」
声を揃えてそう言って。偶然じゃない。声を重ねてみたのは私も三之助もわざとだ。
だけど、その台詞が分かったのも二人して合わせようと瞬時に思ったのも偶然だ。
それに悪戯が成功したときのような気分になって二人して顔を見合せて笑った。






まずは真ん中で切って、