文仙



言いたいことならば、なんだって分かってあげられる。紡ぐ嘘さえ、躊躇なく愛してあげられる。
それが自身か傲慢だなんて、今更問うたところで答えなど転がっているわけでもない。涙が滲んでも構わないといやいや首を振りながら、痛みも悲しみも喜びも憎しみも幸せも過去も未来も、全て眼下にさらけ出すだけが、傍に居続けるための手段じゃない。ただ、これが自分たちの方法だと強く肯定していたわけでは決してなくて、いろんな在り方を否定した時に、否定しきれなかったところにうまく収まって、やり過ごす雨の中でなんとか自分を正当化しただけだ。それでも。それでも何を厭う必要もないと思った。
「今わの際に思い出せると思うか?」
「何を。」
「お前が、私を。」
「はっ、」
思わず、笑った。そのあとで、どうだかな、と続けた俺に、仙蔵は満足そうに唇で弧を描いた。
想いもしないことを平然と口にできるのは、俺も仙蔵も一緒だった。それでもゆるりと弧を描く仙蔵の唇は欺瞞よりもずっと気高くあることを証明していたし、意味のない問いの答えを用意されていないことを嘆くようなふりすらしない。
心にも、ない。やけにきらきらと印象的に、鮮やかなのは嘘だけだろうか。
「私も、お前のことなど忘れているかもしれないなァ、」
「そんなもんだろ。どんな状況かも分からんし、老いたらボケてるかもわからねぇよ。」
気高いその唇から紡ぎだされるのはいつだって高尚な大きな嘘だ。
それに合わせるように嘘を重ねる俺を、俺は肯定できるだろうか。俺と仙蔵に僅かな差があるとしたら、おそらくその一点に限るだろう。
そしてせめてそれを埋められるように、美しい唇に接吻をした。