「暇」
「ひまー」
ごろごろとしながら八左ヱ門が言う。仰向けで枕を高い高いしながら三郎が言う。
「じゃあ寝れば?」
「えー、勿体なくない?」
せっかく明日休みなのにさァ、と僕の提案にはい組二人が反論した。
「何もこんな様い部屋に五人も雑魚寝することないのに。」
いつもは僕と三郎の二人分の布団が敷かれる部屋に、残り三人が各々の布団を持ってやってきた。たまに休みの前日にこうして集まっては明け方までぐだぐだと雑談して夜明けを待ってから昼間で眠る。といっても、結局毎日行動をともにしているので、特別に積もる話があるわけでもないのに。
「あ、じゃあ怖い話でもする?」
呟いてから、あ、しまった、と思った。ば、と勢いのよい音とともに三郎と八左ヱ門が立ちあがる。顔は青ざめている。
「「まだ夏でもないのに!鬼か!」」
「ご、ごめん」
「え、なに三郎って怖いの嫌いだったっけ?」
三郎と八左ヱ門が滅多にない気迫で叫んだので、気圧されて思わず謝る。
後にのほほんと勘右衛門が尋ねる。そう言えば勘右衛門の慌てた声ってあんまりきかないな、と思いながら、明らかにまずいという顔をした三郎を見て小さく吹き出す。
「ハチだけかと思ってた。」
「いつも普通に聞いてなかったっけ?そっち系の話。」
畳みかけるように兵助と八左ヱ門が言うものだから、ついに僕はおかしくてしかたなくなって思い切り吹き出した。
「あは、はははは!」
「ら、雷蔵!」
「なになに」
雷蔵壊れたか?なんておずおずと八左ヱ門が聞いてくる。余計なお世話だよ。第一壊れていないし。三郎の情けない声と、兵助と勘右衛門の好奇心に満ちた声にある程度満足して、そろそろ教えてあげようと口を開く。
「三郎ね。怪談した後って、全然平気なのに、そのあと時間経ってから真夜中に怖がりはじめるんだもの。」
しかも三日ほど、と続けると、先程まで立ちあがっていた三郎はすでに部屋の隅に座り込んで壁を向いていた。
「雷蔵・・・!何で言うかなっ」
へえ、と八左ヱ門と兵助の声が重なった。
行こう、と勘右衛門が口ぱくで合図すると、八左ヱ門と兵助が一緒になって三郎に群がってからかいはじめる。へえ、そうだったんだ。苦手なんだ。怖がりなんだ。
三人の声と三郎の怒る声。なんだか楽しくてしかたがない。
「あはは!もう、みんな声大きいってば!夜なのに!」