とうとう夢見に必死になってしまったのではないかと思った。
「世界を産む樹」
最果ての地にあるそうだ。それを探したいのだそうだ。最果てなど、本当に存在するのかも分からないというのに。何がこの人から現実を削ぎ落としている。何がこの人を奪おうとしている。この、ただ強くも弱くもないただの、人間を。
「・・・・それを探して何かあるのか、仙蔵?」
「何も。」
さらっと言いのけて微笑んだ。微笑みばかりが哀しいくらいに美しい。
「なんにも。だから、なんにも見つけずに済む。」
意味が分かるか?だなんて笑われた。分かるも何も。仙蔵は、自分の中でどうしても線を引こうとする。大切なものを限ろうとする。限って、それで、それだけをどうにかすることに必死になる。それが排他的に見えるのか。それも間違いではないのだけれど。
「俺はどうなる。」
「文次郎、」
「俺はここにしかいれやしないのに、仙蔵。そうしたら俺はどうなる?」
そうか、そうだな、とゆっくりゆっくりと納得してはまた笑い始める仙蔵を俺は思い切り抱きしめた。ここにいて。ここに残って。そうしていて。