午後から降り出した雨がグラウンドに水溜りを作る。窓に流れる雫をつくる。雑音を生む。
「あー、濡れて帰ろう。」
その雨を見て、三之助が言った。
「なんで・・・?」
「俺傘持ってきてない。」
「言えよ。その思考の過程を!」
近くにいた左門が三之助の発言に反応し、さらに答えたその言葉に作兵衛が一言そう言った。
ひとつ置き傘があるから貸してやる、と折り畳み傘を取りにロッカーへ向かった作兵衛の背中を見て左門が、作っておかんみたいだね、と呟いた。
「左門、それ、作に言ったらきっと作怒る。」
「うん、言わねー。」
母親に叱られるのを恐れるような、子供が二人。
帰りのホームルームを待つ教室は騒がしく、雨の音が相成っていつもに増してざわざわとしている。
「ほらよ、」
戻ってきた作兵衛が黒い折り畳み傘を三之助に向って軽く投げた。
おー、さんきゅ、と言いながらそれをキャッチしようと三之助が手を伸ばそうとしたとき、左門が勢いよく手を伸ばしその傘をキャッチする。
「なんで・・・!?」
先程左門に言われた台詞そのままを三之助が返す。
「や、ごめん、何となく。」
ほら、と悪びれもなく左門がその傘を三之助に傘を差し出したものだから、思わず三之助と作兵衛は顔を見合わせて、それから小さく吹き出した。なんだよー、と左門が言いながら、結局一番大きく笑いだした。
「つーか、左門、お前の持ってるその折り畳み、初めてみる。」
「うん。孫兵のだもん。」
「はあぁ。」
左門の言葉に作兵衛が、お前らは傘ひとつまともに持ってこれないのか、とあからさまに大きな溜息を吐く。
「違うよ、俺の傘数馬に貸したんだって!朝登校中に壊れたらしくて!」
「それで左門の傘なくなるんだったら、孫兵が数馬に傘貸せばよかったんじゃ・・・?」
作兵衛の、尤もな意見は、よいことをした、と誇らしげに胸を張る左門には届かなかった。
「ほら!俺たち二人揃って傘すら持ってこれなかったわけじゃないっ!」
横に並ぶ左門同様に誇らしげに三之助が言った。
「お前は傘忘れたんだろうが!」