心臓の形が正しくなる。少しずつ、少しずつ。
ここでよかったと心から思った。ここがあってよかったと切に。
どうして生きているのかと思った。寄り辺がなくては、足など動かせないことを知っていた。
声をあげて泣きたくなるような途方もない感情がふと沸き起こるのは、そのせいだった。
まだ、まだ、歩ける。進める。寧ろ自分は歩き始めたばかりだというのに、寄り辺がなくては自分の背負う者の重さに足が竦んでしまう。終いには息すら忘れてしまいそうになる。
生きていくのは、簡単だと、昔笑っていたのは誰だったろうか。
死ななければいいと言った。生きることは、それだけだと。
おおよそ違えてもないだろう。動いている、心臓が、だんだん、すうと落ち着いてくるのを感じる。
腕の中に一つ、温もり。私の寄る辺だ。
それを抱く腕が、私の手が、あまりにも便利すぎてしまったと後悔する。
吐く息の色が、だんだんと透明になっていく。ここがあってよかったと、なかったら、どうして生きているのかと思った。たどたどしく、私の名前が紡がれる。これだ、と思う。
どく、どくり、とくり、とくりと。
「おかえりなさい」
あぁ、これだ。
そう、強く想った。