この世界の色が全て途絶えるその時は、そして今夜もそんな夢を心のどこかで描き続ける。
人間にはどうしても慣れというものがあって、それが命を奪うことであっても、最初に感じていたような嘔吐感はいつしか感じなくなってしまった。その事実が一番怖い。
私なら、もっと上手く死ぬのに。
自分で殺めた者と、自分の覚えた忍としての理想の死に方の相違に得体のしれない嫌悪感があった。
「どうせなら、骨も残さずに、」
それを聞いた文次郎が苦笑する空気がした。分かりやすい、と思った。
「大方、お前もそんなことを考えていたんだろう。」
近くに川があれば迷わず飛び込めばいい。燃え尽きるのでもいい。どうせ死に際は醜い。脆い。
ハッ、と小さく、吐き出すように笑ったのは、私だったか、文次郎だったか、どちらにしても、同じことだが。
「いや、お前がどうせそんなこと考えてるんじゃないかと思って。」
文次郎と自分の声が鼓膜を振動させるたびに、死に酔っていた感覚がすこしずつ現に引き戻される錯覚がした。
看取ることはなくていい。看取られることこそなくていい。
それでも、とうっかり続けそうになった言葉を慌てて呑みこむ。
(本当は、祈らないわけではない)
(世界の色が全て途絶えるその瞬間だけは、せめて)
(だなんて、今日もまた都合のいい夢を、)
「いいだろう、どうでも。どのみち今は生きているわけだからな。」
自分の口から出た言葉が思っていたよりもずっと単純で驚いた。帰るか、と文次郎が言った。