あーしたてんきになぁれ。そう言って左門が履いていた草履を思いっきり飛ばした。
思いっきり上に飛ばすものだから、それは俺らの真上にとんで、そのまま落ちてくる。数馬の体が少し強張って、隣にいた俺に近づいた。左門の草履が数馬の上に落ちるのは、今までにもあったし、いくらでも想像出来得る結果でもあったからだ。
「雨じゃん」
無事誰にもあたることなく地面に辿り着いた草履が見事に裏返しになっているのを見て三之助が言う。
左門は器用にけんけんで草履の元まで行ってようやく左足に草履をはいた。
えー、と左門が草履に向って不服を訴える。今度は右足を思いっきりひいた。そのまま、右の草履を思い切り飛ばす。
もう一度、草履は裏返ったまま制止する。
「雨じゃん」
三之助が先程と一切変わらないセリフを、一切変わらない抑揚でそのまま言った。もういっかい、と左門が大きな声を上げて、三之助が、おー、もっかい、と賛同した時、木陰で本を読んでいた藤内が顔をあげた。その表情にはどこか驚く風な色が見える。
「なぁ、それって何回もやっていいもんなのかよ?」
三度目のチャレンジでようやく上を向いた草履に左門と三之助が喜びの声を上げている。
藤内と数馬が僅かに頷く。そうだ、それが気になってたんだとでも言いたげだ。
「いいだろ。だってこれ、お祈りみたいなもんなんだろ?」
さも当然のように左門がそう言ってのけた。藤内がくすりと笑って、いいね、そういう考え面白いと楽しそうに言った。そんなもんか、と俺は思う。納得といえば納得なのだが、それ以上に、そんなもんかと思った。
「へー、」
唯一疑問を持たずに左門の反復行為を許容していた三之助が頷く。なんだ、お前は何も考えてなかったのか。言ったら、うん、と肯定された。孫兵は、藤内がいるところの近くで、ジュンコは雨と晴れとどっちがいい?なんて鮮やかな色の蛇に問いかけている。
は組の二人がくすくすと顔を見合せて笑っている。
「何笑ってんの?」
「ん?いやー、なんか楽しいねって。」
は組の二人は二人だけが分かる感性がある。二人でよく同じリアクションを取る。
あーしたてんきになぁれ、と俺も思いっきり草履を飛ばす。
作がやるとは思わなかった!と左門がやけに楽しそうだ。