ひねくれた性格だの感情がどこか欠けているだの、さんざん言われた来た私でしたが、実のところそれを気にしたことは一切ないんです。
そう告げた私に、立花先輩はそうか、とそれだけいって可愛がるように私の頭をやさしく撫でる。
この言葉の続きを、立花先輩はしらない。当然、だって、私はそれを口にしてはいないのだから。
(だけど、そんな私にも自分でも驚くほど真っ直ぐではっきりとした感情があって、)
(それは、惜しみなく貴方に向けられていて、)
このことを、もし私が一生口にすることがなかったら、立花先輩はこの言葉の続きを一生知り得ない。立花先輩が知らないことを、私は一生知っている。それは、なんて甘美な響き。
貴方が知らないことを知っている優越感と、それに付属する傲慢さ、それに伴う劣等感。
何にしたって貴方には到底分かりもしない話だと、口の端を吊り上げる。
私はきっと一生貴方には敵いっこないですけど、それでも、貴方の知らないことを私は一生この胸に刻んでいく。その一生の素敵なこと、貴方には、おおよそ、理解できないくらいが丁度いい。貴方はただそこで、首を傾げるでもなく、知らないことにさえ気づかないまま、こうして私をただなんとなく甘やかしてくれさえすれば。そう、目的も理由もなくていい。ただ、なんとなく。続けて。とろとろと続いてく、日常を紡ぐように。くらり。眩暈すら起こしてしまいそうに、眩しい。
だったら、一生口にする必要などないだろうと思った。これは、ずっと私だけが独り占めしていいんだ。私だけが、私の感情をずうっと独り占めしていればそれでいいのだ。そう思ったら、どこかで花の散る音が聞こえた気がした。
泣きたいと。声をあげて泣きたいと、そんな、赤子のような感情には、名前すらないままな方がきっといい。