「痛い痛いいたいいたい!!」
部屋にタカ丸の悲鳴が響く。その声に兵助は心底驚いていた。
つい最近まで髪結いをしていた。忍を目指してまだ日も浅い。
だからといってこれはないだろう。
「お前、いくらなんでもこれは体硬すぎるだろ!」
怒号が飛ぶ。だってぇ、タカ丸は泣きそうな声を出す。
タカ丸の上半身はほぼ直角で、そこから足に向けて伸ばされた指先がぷるぷると限界を訴えて震えている。
「だって、痛い!膝の裏攣りそう!」
「たーえーろー!」
「ていうか兵助くん、背中押してくれるって言ったけど、それ足だよねぇ?」
酷い、酷いとまた泣きそうな声で訴える。
頑張れと、兵助はタカ丸の背中に力を加える右足を、少しだけ押した。
痛いいたいと、すぐ喚く。なんだこいつ、と兵助は思う。
兵助の周りにいる人物は当然だがみな忍たまばかりだから、町人がどのくらいかは分からないが、これは、むしろ日常生活にすら支障が出るのではないかと少し心配した。タカ丸は、手先ばかりが器用だった。
「斉藤、お前、足曲げるなよ。」
「無理むりむりむり!ギブ!兵助くんギブ!」
喚きっぱなしのタカ丸がうるさかったので、ようやく足を離す。久しぶりに両の足で畳を踏んだ気分だった。
僕って忍者向いてないのかなぁ、とタカ丸が膝の裏をさすっている。そんなこと、ずっと前から分かってたと兵助が言うと、ひどい、とまた小さく呻いてから、交代しようと提案した。
「今度は僕が兵助くんの背中押してあげるから、」
タカ丸が立ち上がったので兵助は逆に座りながら、お前これから風呂上がり毎日これな、というと小さく息が詰まる音が聞こえた。
じゃあ、行くよー。とタカ丸の手が兵助の手に触れる。んー、と兵助は軽く返事をして、タカ丸がその手に力を入れるのと同じタイミングで体を前に倒す。
「ええぇぇえ!」
途端に背中にかかる力が消える。タカ丸の情けない驚愕の声が聞こえた。
「なんなの兵助くん怖い!ぺたっていく!」
上半身の殆どが畳に接する状態で、兵助は呆れながらすこし苛立つ。
「お前なぁ、」
そのあと、なんて続けてやればいいのか、しばし戸惑った。