そのとき、俺も仙蔵も部屋にいて、明日のテストのための復習をしていた。
そろそろ夕食時で、俺は、さてどこでキリにして食堂へ向かおうかと考えていて、丁度、その旨を仙蔵にも伝えようとした瞬間だったと思う。
ぴしゃり、という鋭い音とともに襖が勢いよく開いた。小平太かと思った。というか、そのくらいしか思い浮かぶ人物がいなかった。まず、今までに、後輩がこんな無礼とも言える襖の開け方をすることはない。そして長次は絶対に大きな音をたてて襖を開けない。だから、小平太か、もしくはは組の2人がなにか急用かそれとも怒っている時かそのくらいならばあり得ると、俺はその一瞬に考えたわけだ。
しかしながら、姿を現したのは予想を反した人物だった。
「喜八郎、」
仙蔵が、こいつには珍しいくらいに驚いた表情でそう呟いた。あぁ、そうだ。こいつは作法委員の仙蔵の後輩の、綾部喜八郎だ。
「大人しく蛸壺にでも落ちてくれたらよかったのに!」
俺らの驚きを全く無視して綾部はそれだけ小さく叫ぶように呟いた。喜八郎、と仙蔵がゆっくりと名前を呟く声が聞こえる。自分の委員長が名前を呼ぶのもさらに無視して綾部は、その色素の若干薄い髪を靡かせる勢いで振り返り、襖を閉めずに去って行ってしまった。振り返る直前に、俺を睨むのを忘れずに。
綾部の発したたった一言が、どういう意図で、俺と仙蔵のどちらに向けられた言葉かも分からない。仙蔵、と名前を呼んで仙蔵を横目で見やると、仙蔵は何も言わずにぱたりと忍たまの友を閉じて、食堂へ行こうか、と言った。
食堂へ向かう途中で、私にも分からない、と小さく呟いた。
ただひとつ分かることは、どうやら俺は厄介な人物を敵に回したということだ。