「私が死んだら泣いてくれる?」


なんて、チープで陳腐な問いかけなのだろうと、自覚したまま口にした。
雷蔵は考え込むとき、視線を回す癖がある。今も目をくるっと回してから、小さく唸った。鈍く目が光を反射する。
泣いてしまう、と断言してくれないのか、とここでからかって笑ってしまうのは容易い、けれど、そうではないと知っているから、とても嬉しい。
雷蔵の中で、三郎の死は、現実味を帯びていない。その表れだ。
噫、いずれ死ぬことなど分かりきっていると言うのに!
忍の世界でなんて甘いことを、だなんて思わない。雷蔵の隣に己がいる。死ぬことが想像できないくらいに、生きている。
それっていうのは、三郎にとって堪らなく美しい状態だ。三郎の願う中で最高の状態。
生きている、雷蔵の隣で、雷蔵の姿の自分が。狂おしいほどに愛おしい。
「泣いてしまうのかなぁ、」
何の感慨もない声で、雷蔵は目を細める。
曖昧なその笑い方が、三郎は気に入っている。同じ顔で、同じ表情を真似した。
「三郎は、」
真似をされたのだと、雷蔵も気付いている。けれど雷蔵は何も言わずに三郎を許容する。
「ん?」
「三郎は、僕が死んだら泣く気でいたの?」
それを言うのか、と三郎は息を強く吐いて、真直ぐに雷蔵を見据えた。
同じ光を反射した、同じ色のまなこのかち合う。
「まさか!雷蔵の死は即ち私の死だよ。」
境界線が、融けて消えてしまえばいいと、静かに願った。



貴方の中の死なない私